野生のヒグマがすぐそばを闊歩する世界…… 「知床」に行って人生観が変わった話

野生のヒグマがすぐそばを闊歩する世界…… 「知床」に行って人生観が変わった話

突然ですが、みなさんは「知床」が日本のどの位置にあるかパっと答えることができますか? 「マイナーな地名」と侮ってはいけません。知床は世界自然遺産に認定されていて、海外からも多くの観光客が訪れる人気スポットのひとつです。

北海道・道東の端に位置し、オホーツク海に剣のように突き出しているのが「知床半島」。近年の『ゴールデンカムイ』ブームでアイヌ文化に注目が集まっていますが、知床の語源はアイヌ語の「シリエトク」=「地の果て・突端部」に由来しています。その語源のとおり知床半島はまさに北の大地の先にあり、細く尖った先端部分には知床岬があります。

さて。今回のブログ記事を執筆している私綾森邦雄 は、小学生の時点で寝台列車に乗ってひとり旅をするような、生粋の旅行好き。これまで日本各地を旅してきた中で「お気に入りの場所は?」と聞かれたら、食い気味に「知床」と即答してきました。札幌や函館など北海道は既に10回以上訪れていますが、その半数以上が知床であることからも、自分で「ハマりすぎ」だという自覚があります。

なぜここまで知床という土地に魅了されたのか。自分なりに分析すると、「野生動物の宝庫」「手つかずの自然」「絶景」といった点が挙げられます。

そもそも北海道は野生動物遭遇率が本州と比べてハンパなく高く、自然がそのままのかたちで残る知床では至るところでその姿を見ることができます。とりわけ日本の中で北海道にしか生息していないヒグマの密集地帯であり、観光客が遭遇してしまうこともしばしば。

何を隠そう私は動物の中でもイヌ・ネコよりヒグマが好きという珍しいタイプで、知床旅にどっぷりハマった理由も「野生のヒグマを観察できる可能性が一番高い場所」だから。実際に世界自然遺産区域内の名所「知床五湖」はヒグマのテリトリー内にあり、言うなればヒグマの棲家に人間がおじゃましているわけです。

ところでこれまでの知床旅は女満別空港から鉄道とバスを乗り継いでいましたが、2022年の初夏に向かった際は初めてレンタカーを借りて、女満別空港から直接現地入り。これが驚くほどメリットだらけで、「時刻表を気にする必要がない」「寄り道し放題」「バス路線のないポイントにも自由に行ける」とまさしくやりたい放題。ベースにしているホテルを朝4時に出発し、あわよくばヒグマが出てこないかとドキドキしながら世界自然遺産内の国道をドライブしたものです。結局出てきたのはエゾシカばかりでしたが……。

知床五湖はその名が示すとおり、森の中に一湖から五湖まで点在していて、ぐるりと円を描くように五湖を周る地上遊歩道が設置されています。ただしヒグマ活動期は、安全のためガイドツアーへの参加が必須。またガイドツアー中でもヒグマに遭遇、あるいは目撃した場合は即刻ツアー中止になります。

ヒグマのテリトリーということで爪痕が残った木も多く、五湖散策コースはガイドが引率していてもやはり独特な緊張感があります。それでも森の中に静かに佇む湖は美しく、双眼鏡を使って木々の間や湖面上を飛び交う野鳥を観察するのも楽しみのひとつ。北海道固有の植物も至るところに生えていて、ガイドに説明を受けながら散策していると自然にこちらも知識が身についていきます。

それでもやっぱりヒグマが怖い、あるいは体力に自信がないという人は、一湖に設置された高架木道をチョイスしましょう。こちらは地上から高さがあり、ヒグマの侵入を防ぐための高圧線が張られているので、誰でも自由に散策を楽しむことができます。森の中と違って開放的な環境に設置されていて、知床連山の勇姿やオホーツク海に沈む夕日はまさに絶景!

ちなみに「ヒグマのテリトリー」といっても、ヒグマは警戒心が強い動物なのでやたらめったら遭遇するわけではありません。私も五湖コース散策ツアーに5回参加したうち、ツアー中止になったのは先を行くグループが遭遇した時の1度きりです。

その代わり、というのもおかしな話ですが、エゾシカは「またか」とツッコみたくなるほど目にすることができます。あとはエゾリスやネズミなどの小動物が出てくるので、視界の中のどんな小さな動きも見逃さないよう精神集中。動体視力を試されるポイントです。

知床五湖や世界自然遺産内でなくても、知床では野生動物が至るところに姿を見せてくれます。こちらの写真は世界自然遺産の境界線・幌別川を跨ぐ手前、国道334号線脇で撮りました。車が往来する道端でエゾシカが授乳しているなんて、普段東京のド真ん中で暮らしている自分には信じられない光景です。

こちらは幌別川を渡ってすぐの場所。この近辺もヒグマがよく出没するスポットで、土手の植物や木の実を食べたり、川沿いから河口へ出る個体がいます。

ガイドの車で知床五湖へ向かう際に目撃したので安全圏から撮影(望遠レンズも使っています)できましたが、車に乗っていたとしてもヒグマとの不必要な接近は避けるのがベスト。旅先でバンバン写真を撮りまくるタイプですが、この写真を超えるものはいまだに撮影できてないですね。ちなみにガイドさんも興奮しながらカメラを連写していました。

基本的に知床旅は初夏から秋にかけて敢行していますが(冬はヒグマが冬眠して姿を見せないので避けている)、もし時期が良ければナイトツアーもぜひ参加してみてください。複数のネイチャーガイド会社が実施していて、ウトロ地区のホテルを周って参加者をピックアップしつつ、街灯もない真っ暗闇の知床五湖近辺に向かってくれます。車を降りて観察する知床の夜空は、もう人生観を変えられるんじゃないかというくらい格別。星空が近く天の川がはっきり見えるだけでなく、夜空を駆けていく人工衛星の輝きを目視で追うこともできます。

また、暗闇の中で活動する野生動物を観察できるのもナイトツアーにハマった理由のひとつ。もちろんエゾシカも出てきます。キタキツネもバンバン出てきます。レアキャラとして、運が良ければヒグマや北海道の貴重なシマフクロウも見ることができます。私? 動物好きの欲が出すぎているのか、夜のヒグマとシマフクロウにはいまだお目にかかれていません。さすがレアキャラ。

知床旅に行くようになって2、3回目だったか、ウトロでマウンテンバイクを借りて知床峠を駆け下りてきたこともありました。振り返ってみると怖いもの知らずというか、我ながらよく実行したなと思います。レンタルした際に「ヒグマが出てきたらどうすればいいですか?」と店主に尋ねたら、「自転車で逃げてもムダです。ヒグマはクルマ並みのスピードで走るのですぐ追いつかれます」と言われましたからね。

とはいえ、自らの身で風を切りながら駆け下りる知床峠もまた格別でした。想像してみてください。屹立する羅臼岳を横目にS字カーブを曲がると、視界が開けた先にオホーツク海が広がっているのです。中腹から麓まで木立の間を抜ける際はヒグマが出てこないか緊張しますが、これまで体験したアクティビティではトップクラスの爽快感。レンタカーを借りた際はまさかの暴風雨で知床横断道路が通行止めという憂き目に遭ってしまったので、次回リベンジしたいと思います。

これだけ知床にハマっていると、周りから「知床に住めばいいじゃん」と言われますが、割と真面目に移住したいです。正直に言うと、やはり東京からの知床旅は結構旅費がかさんでしまいます。最低でも2泊3日はしたいし、ガイドツアー等々アクティビティを盛り込むのでなおのこと。

今後も東京?知床を往復することを考えたら、知床で安い物件を購入して自分でリフォームしながら暮らす方が有意義なのではないか。いっそのこと狩猟免許を取得して、エゾシカを獲って糧にするのもありではないか。プランを考えているだけでワクワクしてきます。そんなに甘い世界ではないぞと怒られそうですが、自分DIYなら得意です! 電動工具類は一式使えるし、アーク溶接だってできます!

もちろん、さすがに今すぐというわけにはいきません。移住には軍資金が必要ですし、もう少し東京でやりたいこともあります。50代か60代。自分で「よし」と思えるタイミングで移住するのもありかなと。それまでにもっと知床の野生動物や植物、環境について知る必要もあります。

知床にハマってかれこれ10年以上。もうしばらく「旅」というかたちで訪れることになりますが、次にどんな経験が得られるのか楽しみです。

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